■リチウムイオン電池で日本人がノーベル賞を受賞
2019年度のノーベル化学賞は、吉野彰旭化成・名誉フエロー、ジョン・グッドイナフ教授(米テキサス大オーステン校)、そしてスタンリー・ウィッティンガム教授(ニューヨーク州立大学・ビンガムトン大学 )の3氏が共同受賞されました。
この受賞で、日本人の自然科学系3賞(医学生理学、物理、化学)の受賞者の合計は24人になりました。
この栄誉を心よりお祝い申し上げます。
さて、
吉野彰旭化成・名誉フエローの業績の内容、研究開発の経緯や苦心談、これからの研究の方向、人柄、学歴、ご家族などは連日テレビの受賞インタビューやニュース、バライティー番組、新聞などで取り上げられて詳細に報道されています。
この場でこれらの事柄を敢えて取り上げる必要性はないと考えます。
しかし、
これらの報道を見たり聞いたりした時に、吉野さんについては良く分かりましたが、何か「スッキリ」した気持ちになれないのです。
このスッキリしない理由は、
共同受賞者と吉野氏との関係、他に2名の日本人の有力な候補者がおられたのですが、日本のマスコミはあまり報道していません。
受賞を逃した方々を慮ったことだろうと考えられます。
私見を挟んで、あまり報道されていない事柄について調べて見たいと思います。
■最近のノーベル賞の授与基準は?
ノーベル財団が設定している基準は、明確に報道されていませんが、色々な報道の内容から以下の3点が考えられます。
(1)誰が受賞対象テーマの「蓋」を最初に開けたか
(2)そのテーマの基礎の確立、そして応用発展の可能性を明らかにする
(3)実用化がなされて人類の発展に大きく貢献し、その実績を得ているか、或いは近い将来人類に大きく貢献する可能性があると推測できるか
の3点であろうと考えます。
■共同受賞者の関わり
上記の3点の基準に受賞者の貢献度を当てはめて見ると、
ジョン・グッドイナフ教授は(1)と(2)、
スタンリー・ウィッティンガム教授は(2)、
吉野彰旭化成・名誉フエローは(2)と(3)、
であろうと考えられます。
しかもいずれの方も別々の組織に属して、独自の観点から研究・開発を進めた結果、すばらしい業績をあげてこの賞に結びついたものです。
■ジョン・グッドイナフ教授と吉野氏との関系
ジョン・グッドイナフ教授には日本人の共同研究者がいました。
その方は水島公一東芝エグゼクティブフェローです。
彼らのグループはリチウムイオン電池の基礎研究で正極(+極)として「コバルト酸リチウム」が使えることを発見しました。
吉野氏が最終的に陽極材料として採用したのは「コバルト酸リチウム」が最適であることを確認したからです。
そして実用化(製品化)を実現しました。水島さんの成果がなければ、今日のリチウムイオン電池はなかったかもしれません。
この時、吉野氏は陰極材料としては、電導性プラスチックのポリアセチレンが有効なことを見いだしました。
その後、負極の材料を炭素繊維に変更することで小型軽量化をし、電圧を4ボルト以上に高める技術も開発しました。
これが製品化されて近年のIT革命に大きく寄与したのです。
吉野氏はノーベル賞の決定後のインタビュウで以下のように述べています。
「リチウムイオン電池の実用化には、さまざまな研究成果の積み上げがあり、その一部に関わることができ、世界の人々の生活に貢献していることを共同研究者の一人として、大変光栄に思う」と語りました。
水島氏はジョン・グッドイナフ教授が受賞されたことを心から祝福するメッセージを送っておられます。このことがWeb報道で取り上げられていました。
さらに、別の観点から、世界で初めて商品化を実現した西美緒(よしお)ソニー元常務もおられました。
同じ原理でソニーが世界で初めてリチウムイオン電池を商品化しています。
この商品は、吉野氏が関わって発売されている商品とどのような違いがあるのかは筆者は明確に把握出来ていません。
水島氏と西氏はノーベル化学賞に対して有力候補として名前が以前から上がっていたのですが・・・。
ノーベル賞は受賞者が3名以内とする定めがあるようです。もしこの定めがなかったなら、当然受賞されていたことでしょう。
■スタンリー・ウィッティンガム教授の業績
「ノーベル財団プレスリリース」によれば、
リチウム電池の発明およびインターカレーション化学における貢献であるとしています。
彼は、正極材料として二硫化チタンを使い、負極にリチウム金属を使うことで、繰り返し充放電可能な新しい電池を開発しました。
二硫化チタンは積層状の化合物です。この層間にリチウムイオンが出入りしても形が壊れにくく、繰り返し充電と放電が可能になるのです。
この”層状化合物にイオンが出入りする”という考え方を、「インターカレーション」と呼ばれており、その後の電池材料で広く使われる極めて重要な考え方となりました。
そしてリチウムイオン電池の基礎を確立しました。
しかし、この電極材料の組み合わせは、原理的には問題がないのですが、危険なリチューム金属を使用するため安全を第一に考える必要のある一般ユーザー向けの商品には不向きです。
安全、コンパクト、軽量、扱いやすさ、大量生産性などの課題を解決してIT機器の革命をももたらした吉野彰旭化成・名誉フエローの業績が大きいのです。
■まとめ
私たちの生活に深く関わるリチウウムイオン電池の研究・開発・製品化がノーベル化学賞に輝いたことは本当にすばらしいことです。
日本人として、吉野彰氏と関係者のご努力に心から敬意を表します。
参考資料:朝日新聞、NHKニュース、Yahoo!ホームページ