65歳以上の高齢者を対象に新型コロナウイルスワクチンの接種が始まっています。
しかし感染の収束が一向に見通せていいない状況です。ワクチンには期待が大きいのですが…。
しかしワクチン供給が思うように進んでいないため、接種完結までにかなりの時間がかかる可能性があります。
新型コロナウイルスは極めて速いスピードで変異を繰り返しています。
したがって、ワクチンがどの程度有効なのか不明です。このような状況下、新たな治療薬の登場が待たれています。
新たな治療薬探し
現在、既存薬から治療効果がある薬を探す研究が盛んに行なわれています。
この理由は、効果が明確に把握できれば、既存薬であるため薬害が起こりにくい。
生産がなされているので供給がスムーズに行えるなどによるものです。
現在以下の2例が発表されています。
京都大学と長崎大学がIPS 細胞を利用して効果のある既存薬を探すシュミレーチモンによる探索方法を編み出しました。
九州大学は抗うつ剤で、コロナウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ効果があることを発見しました。
もう少し詳しく見ていきましょう。
京都大学と長崎大学の方法
京都大学iPS細胞研究所の井上治久教授と長崎大学感染症共同研究拠点の安田二朗教授らの共同研究グループが行っています
人間のiPS細胞に特別の措置をして、新型コロナと同じウイルスの一種であるセンダイウイルスの感染を医薬品が防げるかどうかを調べるものです。
この方法により、約500種類の既存薬を調べました。
この結果、いくつかの既存薬に感染防止効果があることが判明したとのです。
新型コロナウイルスの感染を阻止する効果があるとするものは、骨粗鬆症の治療薬「ラロキシフェン」と糖尿病の治療薬「ピオグリタゾン」です。
これらの既存薬が感染患者に使えるかどうかについてはさらに検証を続ける必要があるとしています。
九州大学の方法
九州大学大学院薬学研究院の西田基宏教授と国立医薬品食品衛生研究所薬理部の諫田泰成部長らの研究グループです。
新型コロナウイルスが人間の細胞膜上にある受容体タンパク質と結び付いて細胞内に侵入、増殖して感染を引き起こすことに着目しました。
1200種類もの既存薬から感染予防の可能性がある薬として13種類を絞り込みました。
この13種類について、新型コロナウイルスを模した人工タンパク質を用いた感染実験や、実際に新型コロナウイルスでも確かめました。
その結果、抗うつ薬「クロミプラミン」は細胞へのウイルス侵入を防ぐ効果があることが分かりました。
クロミプラミンと抗ウイルス薬「レムデシビル」を併用することで、ウイルスの増殖抑制効果が大きく増すことも判明しました。
今後の展望
新型コロナウイルス感染症は世界中に急速に広がりました。
このスピードに対応するため、治療薬を時間をかけて初めから開発するよりも既存薬から治療薬候補を探す方が有利です。
日本でも多くの研究機関でこうした研究が精力的に行われており、理化学研究所が運用するスーパーコンピューター「富岳」が威力を発揮しています。
新型コロナ対策として富岳に期待されている研究テーマの筆頭が「治療薬候補の同定(治療薬探し)」です。